第17回募集(2015年2月15日~4月14日)に寄せられた「自由部門」の作品をご紹介します。
ご投稿いただいた皆様、ありがとうございました!
ほら、
君の後ろにだって、
世界は深く広がっているんだよ。
―――― 鏡
どんなにどんなに、つかれても
手のひら返されつらい時も
周りのヨイショやかけ声で
また僕は、気分よく
もちあげられちゃうんだ。
―――― 臼
時にさじ加減ひとつで決まるから、
責任を感じることもあるのです。
―――― さじ
嫌な事から
目をつぶってしまう位なら。
いっそ目を見開いて
痛い思いをする覚悟をしてみなよ。
なあに誰かしら
助けてくれるもんさ。
―――― シャンプーハット
ファーストキス
それは、
どうぞよろしくの合図。
ラストキス
それは、
今までありがとうの気持ち。
―――― 歯ブラシ
乳離れして、
父離れして。
やっと君は一人で歩き出す。
きっと君は一人で歩いて行ける。
―――― 哺乳瓶
いい笑顔には、
ついつい頬がゆるむ。
気持ちも、うつるんですね。
―――― 写真
一筆選評
今回の「自由部門」の一筆選は、メメ倉さんのこの一訓です。
「ほら、/君の後ろにだって、/世界は深く広がっているんだよ。――――鏡」
「これは巧いなぁ」読んだ瞬間、そう思いました。視点が素晴らしいし、スケールも大きい。
背後というのは、普段、意外と気にしないものですが、実は、そこには自分に見えない世界が広がっている……そう考えると、ちょっとトキメク一方で、戒めも感じるという、複雑な心境になります。もちろんこの訓は、物理的なことだけでなく、内面的なことや、延いては社会的なことなどにも当てはまるメッセージとなっていて、そのスケール感と奥深さがスゴイ。また、「深く広がっている」と「深く」という言葉を使っているところも興味深いですね。鏡の世界は、四角や丸型に切り取られた、スペースに限りのある世界なので、あえて広がりを強調しすぎず、「深く」という言葉を作者は添えたのではないか、と個人的には考えました。メメ倉さん、いかがでしょう?
もうひとつ一筆選候補だったのが、SSじゅうさんのこの一訓です。
「どんなにどんなに、つかれても/手のひら返されつらい時も/周りのヨイショやかけ声で/また僕は、気分よく/もちあげられちゃうんだ。――――臼」
餅つきの一連の所作を、ユーモアあふれる訓に昇華した力作です。さすが当コーナー常連の物々訓名人、SSじゅうさん。実に巧いですね。
かんちゃんさんの一訓は、日頃から心がけたい教訓を示唆する作品です。
「時にさじ加減ひとつで決まるから、/責任を感じることもあるのです。――――さじ」
さじ加減ひとつ。これは料理の世界だけでなく、仕事全般について言えること。ささいなことでも粗末にせず、しっかり対応していかないと、あらぬ失敗を招くことになります。おごることなく、謙虚な姿勢で、丹念に仕事と向き合っていくことが大切。「責任を感じることもあるのです。」という一言には、そうした想いが込められているのだと思います。王道の作品でありながらも、実に重みのある一訓です。(一筆)