物々訓倶楽部

第18回 投稿作品【自由部門】

2015年7月10日

第18回募集(2015年4月15日~6月14日)に寄せられた「自由部門」の作品をご紹介します。
ご投稿いただいた皆様、ありがとうございました!

妻は引き立て役だなんて
思っているんじゃなあい?
―――― 刺身皿

作者:お題:

繰り返し繰り返し、
その単調で愚直な作業が、
前へ前へと
君が進むために必要なのだ。
―――― 自転車

作者:お題:

踏んだり蹴ったりの日々も、
駆けたり躓いたりした道のりも、
飛んだり跳ねたりした経験も、
確かな足跡として、
今の君に続いている。
―――― 靴

作者:お題:

白いものは白、黒いものは黒。
周りの目や権力なんて気にせず
今でもはっきり言えますか?
「なんで?あれは緑だよ!」
と言ってくれたあの時のように。
―――― 信号機

作者:お題:

暗がりの
歩きスマホ
ボクに照らされる顔
すれ違う人には
お化け顔だな
きっと
―――― スマホ

作者:お題:

たまには周りを頼ってみなよ。
猫の手だって
案外役にたつもんさ。
―――― 包丁

作者:お題:

一筆選評

今回の「自由部門」の一筆選は、先月、訓人(物々訓プロジェクト公認作家)に認定されたSSじゅうさんの、この一訓です。

「妻は引き立て役だなんて/思っているんじゃなあい?――――刺身皿」

さすが訓人、実に巧い。刺身の「つま」、漢字で書くと「妻」なんですね。主となる料理に寄り添って置かれるので、夫婦に見立て「妻」と呼ばれるようになった、というような語源説もあるようです。夫がいてこその妻、妻がいてこその夫。夫を「主人」と言いますが、どちらが「主」かなんて言えませんよね、本当は。この訓は、そのあたりをユーモアたっぷりに表現した傑作です。「思っているんじゃなあい?」の「なあい?」という表現も効いてます。「あ」が入っているかいないかで、だいぶ印象が変わりますよね。こうしたちょっとした工夫で、作品の輝きがグンと増すこともあるので、皆さんもぜひトライしてみてください。

同じくSSじゅうさんの別の訓「チリトリ」、これも巧い。

「そんな誇り/捨てちまいなよ。――――チリトリ」

「つま→妻」「埃→誇り」といったように、テーマとなっている物に関連するものを、別の視点あるいは別の言葉に置き換えて訓に昇華する……手法的には、「刺身皿」と「チリトリ」は似ているのですが、どちらも作品の力が強く、非常に印象的です。

同じく先月、訓人(物々訓プロジェクト公認作家)に認定されたメメ倉さんの2訓も、素晴らしい出来栄えです。

「繰り返し繰り返し、/その単調で愚直な作業が、/前へ前へと/君が進むために必要なのだ。――――自転車」

「踏んだり蹴ったりの日々も、/駆けたり躓いたりした道のりも、/飛んだり跳ねたりした経験も、/確かな足跡として、/今の君に続いている。――――靴」

深みがありますね。たとえ地味な作業でも、それを地道に積み重ねることで前進できるんだと説く「自転車」は、コツコツと一生懸命がんばっている人にとって、とても力になる名訓だと思います。ちょっとジ~ンときました。「靴」は、靴にちなんだ表現を巧みに配しながら、これまでのすべての経験が糧となって今の自分がつくられていることをドラマチックに説いた秀作です。

そして、太平楽さんの一訓、これはユーモアに満ちた、とても味わい深い作品。

「暗がりの/歩きスマホ/ボクに照らされる顔/すれ違う人には/お化け顔だな/きっと――――スマホ」

単にユーモアがある、というだけではありません。ユーモアに包んで、さりげなく、夜の歩きスマホはよそうというメッセージを伝えているように、僕は感じました。お化け顔にはなりたくないですから(笑)それにしても、歩きスマホは危ないですよね。通話以外は、特に。歩く時は、下を向かず、前を向かないと……。(物々訓主宰/一筆)