物々訓倶楽部

第30回 投稿作品【自由部門】

2017年7月10日

第30回募集(2017年4月15日~6月14日)に寄せられた「自由部門」の作品をご紹介します。ご投稿いただいた皆様、ありがとうございました!

いってらっしゃい!

お見送りはハイタッチ
―――― 自動改札

作者:お題:

背表紙だけで満足しちゃう?
―――― 本棚

作者:お題:

僕がいないと締まらないだろう?
―――― くつ紐

作者:お題:

立ち仕事で
足が棒のようだ
―――― 案山子

作者:お題:

歯医者は怖いから嫌だぁ?
行かせてもらえるだけ
ありがたいと思え!
―――― ノコギリ

作者:お題:

ギリギリなんて
ろくなもんじゃない。
ほどほどが最適よ。
―――― 爪切り

作者:お題:

回を重ねるごと同窓会で増えてく
『かわらない』
そしてワタシへのダメだし!?
でも、みんな楽しそうで
ついてきて良かった♪
―――― 卒業式の寄せ書き

作者:お題:

きっと届くよ
デビューしたてで書かれたボクを
大切に飾ってるキミの気持ち
今、タイトル戦を応援してくれる
キミの襷(たすき)

―――― 棋士のサイン色紙

作者:お題:

一筆選評

今回の「自由部門」の一筆選は、物々訓の常連・ヅキーさんの、この一訓です。

いってらっしゃい!

お見送りはハイタッチ
  ――――自動改札

なるほど、ハイタッチ。言われてみると、確かにそうですね。人間の視点だとロータッチなので気づきませんでしたが、自動改札機からすると精一杯のハイタッチ。そう、子どもとハイタッチしているような感覚ですよね。そう考えると、あの冷たい印象の自動改札機がとたんに人間味を帯びて、健気でいとおしい存在に思えてきます。同時に、殺伐とした出勤タイム、その冷たく乾いたモノクロームの世界に、ほんの少しだけど彩りや潤いやぬくもりが生まれ、ちょっぴり前向きな気分になれそうな気がします。物の見方、とらえ方ひとつで、気分も変わる。意外と。そんな風に思います。きっと帰りも自動改札機は、こんなセリフを投げかけてくれることでしょう。

おかえりなさい!

お出迎えもハイタッチ
  ――――自動改札

同じくヅキーさんのこの一訓も、個人的には刺さりました。グサッと(笑)

背表紙だけで満足しちゃう?
       ――――本棚

いやぁ、積ん読傾向がある僕としては耳が痛いです。思わず本棚を見直して、「あぁ、これもまだ読んでなかった……おぉ、これも、これも……」。反省。語り口もうまいですよね。「満足するな」とせず、あえて「満足しちゃう?」と質問形式にしているので、自分事化しやすい。さらに、ちょっとふざけてからかっているような語り口なので、説教臭くなく、ストンと心に落ちる。巧いなと思います。

詩のぶさんの一訓は、シンプルでいて深みある佳作です。

僕がいないと締まらないだろう?
        ――――くつ紐

文字通り、くつ紐は、くつが脱げないように締める物。それを、チームを締めるリーダーになぞらえた、ある意味、シンプルで分かりやすい訓……なのですが、思い描いてみてください。くつを締める、くつ紐の様子を。そうすると、この訓は一気に深みと輝きを増します。くつの中央に二列に並ぶ複数の穴。その穴をひとつひとつ几帳面にくぐり、くくり、締める。ひとつの穴もおろそかにすることなく、きちんとフォローしてまとめ上げる。この穴が、チームのメンバー。そして、このきめ細やかさが、リーダーの条件。そんなことを教えてくれる一訓です。チームをまとめ上げるには、ただ締めつけるだけではダメなんですよね。ちなみにこの訓も、前出のヅキーさんの「本棚」同様、質問形式になっていますが、こちらは自分事化の効果ではなく、セリフを強める効果を生んでいるようです。同じくらいの長さの一文で、同じ質問形式なのに、違う効果が生まれる。日本語って、おもしろいですね。

同じく詩のぶさんのこの一訓、思わず吹き出しました。

立ち仕事で
足が棒のようだ
――――案山子

「足が棒のようだ」って、もともと棒でしょ(笑)って、思わずツッコミを入れたくなるユーモア訓。巧いですよね。このコミカルさのおかげで、田畑を守るためにひたむきに立ち続ける案山子の真摯な姿勢が、逆にスッと心に入ってきます。硬くなくて……なんというか、人間味を感じるせいですかね。もう一歩、踏み込んでみると、このコミカルな「足棒発言」は、この案山子に人格を与えている、と考えることもできるでしょう。この案山子さんは、ひょうきんなタイプ。もともと案山子は人みたいな見た目であるものの、そのひとつひとつに実は人格がある、なんてこと、想像したことがありません(人形ほど人っぽくないからですかね。大きさは人形より人っぽいですが笑)。でも想像してみると、おもしろそう。生真面目タイプ、気骨タイプ、軟弱タイプ、のんびり屋さん、照れ屋さん、自慢屋さん、弱虫、怒りんぼう、お調子者。いろんな案山子さんがいて、それぞれがどんなセリフをつぶやくか考えてみると……うーん、楽しそう。

メメ倉さんと宮嶋美詠子さんの一訓も印象的でした。深爪した時の、あのイヤ~な感じを思い起こさせて、「ほどほど」の大切さを説いた、メメ倉さん作「爪切り」。会えばあの頃にタイムスリップ、気の置けない同窓生って、やっぱりいいなぁ……そんな思いが湧き上がる、宮嶋美詠子さん作「卒業式の寄せ書き」。どちらも、味わい深いですね。

もっと紹介したい訓はあるものの、長くなってしまうので、今回はこのあたりで切り上げることにいたします。作品をお寄せいただいた皆さん、ありがとうございました。今回も、じっくり堪能させていただきました。またの投稿をお待ちしています。

蛇足ながら、最後に僕も一訓。ダジャレ訓です(笑)

チンして
キチンと美味しくて
キッチンも汚れないなら、
それに越したことないよ。
―――― 電子レンジ

作者:お題:

(物々訓主宰/一筆)

※物々訓で扱うのは人工物に限るという作法があります。今回ヅキーさんから「灰」という訓をお寄せいただき、これは肥料の「草木灰(草や木を焼いてつくった灰)」を意味するものだと考えますが、果たして「物」と言えるか判断が難しいところですので、大変申し訳ないのですが、今回は選外とさせていただきました。素敵な訓だったので誠に残念なのですが、サイトに掲載できないため、ここで紹介させていただきます。

花が咲くってことは

君はまだ枯れてない
    ――――灰

※「課題部門」もありますので、ぜひそちらもご覧ください。