第35回募集(2018年2月15日~4月14日)に寄せられた「自由部門」の作品をご紹介します。ご投稿いただいた皆様、ありがとうございました!
身を粉にしてでも伝えたいことが
この世界には沢山ある
君達にはまず
それに気がついて欲しいんだ
―――― チョーク
ほら、さっさといきな
―――― ざる
軸足がブレなければ
丸く収まるものさ
―――― コンパス
敵陣に行かなきゃ
成れないよ
キミの指先に
ボクらのサイン
伝わってる?
―――― 将棋の駒
あなたはいつも冷たい私を温めて
くれる。
―――― 体温計
例えるなら
深海、宇宙?
マグマ、氷河?
未知との遭遇体験記?
―――― 棋譜
キミらの今までの努力
かわりはないから~
兄弟の言い合いの元は
誰が名人 竜王の筆か
―――― 将棋・段位の免状
一筆選評
自由部門の一筆選は、3月付けでめでたく「訓人」となった、詩のぶさんの一訓です。(訓人は、物々訓プロジェクトが公認した作家に与えられる称号。こちらの特集記事を、ぜひご覧ください!)
同じく訓人のヅキーさん作「ざる」も、異色の快作で魅力的だったのですが、今回は王道感のある、詩のぶさん作「チョーク」を選びました。
身を粉にしてでも伝えたいことが
この世界には沢山ある
君達にはまず
それに気がついて欲しいんだ
――――チョーク
さすが訓人、貫録の一訓です。「チョーク」の特徴をうまく生かした、芯のある深イイ訓。物々訓の王道を行く快作です。
そして、ヅキーさんの「ざる」。
ほら、さっさといきな
――――ざる
「ざる」の粋な計らい? よくない手引き? ちょっとしたことには目をつぶって、抜け穴をくぐらせる。よく取れば、寛容で情がある。悪く取れば、大雑把でいい加減。あるいは、それらが混沌と入り混じっている? 単純には割り切りない、妙に人間臭い「ざる」。
普通に読むと、前者の「寛容で情のある気質」のほうが印象として強いのですが、でもやはり、セリフの主は「ざる」。漏れが多いものの代名詞ですから、どうしても、後者の「大雑把でいい加減な気質」の印象も付いて回ります。さらに、「ほら、さっさ」の響きから、なんとなく「どじょうすくい」のような、「ざる」を使った滑稽な踊りまで連想されて、その楽天的な雰囲気から大雑把な気質が、より引き立ってきたりもする。そう考えると、この訓は複雑で深い。ほんのひと言にして、なかなかにスゴイ、異色のユーモア訓です。
ヅキーさんの訓を、もうひとつ。「コンパス」、こちらは「ざる」とは打って変わって、物々訓の王道を行く佳作です。
軸足がブレなければ
丸く収まるものさ
――――コンパス
コンパスの特徴をうまくアイデアで包み、教訓へと昇華。小気味いいですね。
続いて、今や将棋訓の代名詞となりつつある、うすた~さんさんの佳作「将棋の駒」。
敵陣に行かなきゃ
成れないよ
キミの指先に
ボクらのサイン
伝わってる?
――――将棋の駒
「虎穴に入らずんば虎子を得ず」の将棋版、いや将棋訓としては、それ以上のエールだと思います。棋士は独りじゃない。駒という仲間、戦友がいる。その様子がひしひしと伝わってきます。そして、生々しい臨場感。棋士と駒の緊迫した息づかいが聞こえてきそう。お見事です。
そして最後に、ゆきさんの「体温計」。逆転の発想を生かした一訓です。
あなたはいつも冷たい私を温めて
くれる。
――――体温計
「体温計」が語ると、検温がこんなにも、やさしくロマンチックになるのですね。人にとってはツラい発熱も、「体温計」にとってはよろこびになる。まるでシーソーのよう。でも考えてみると、こういうことって、意外と世の中にはありそう。立場が変われば、状況も変わる。ものの見方や、思いや、気分だって変わる。この訓、一見やさしくロマンチックな風情ですが、実は深い。
(物々訓主宰/一筆)
※今回、baddesigncompanyさんから「生タマゴ」という訓をお寄せいただいたのですが、物々訓で扱うのは人工物に限るという作法があるため、大変申し訳ないのですが、選外とさせていただきました。面白い訓だったので誠に残念なのですが、サイトに掲載できないため、ここで紹介させていただきます。
今度生まれ変わったら、
せめて、鶏に生まれたい。
――――生タマゴ
※「課題部門」もありますので、ぜひそちらもご覧ください。